仙台高等裁判所秋田支部 昭和30年(う)109号 判決
原判決挙示の証拠によれば優に被告人が藤屋久吉等四名より受取り保管中の金員即ち同人等において村岡ムメノに支払うべき不動産売買代金金四十五万円を原判示の如く前後二回にわたり擅に費消又は着服して横領した事実を認定することができる。所論は右金四十五万円の内金十万円は買受人藤屋久吉等より被告人等に対し不動産売買の仲介に対する報酬として支払うとの契約があつたと主張するけれども原審証人藤屋久吉、同松井雄四郎の各供述並びに司法警察員及び検察事務官に対する藤屋久吉、松井雄四郎、松井久四郎、高橋久太郎、高橋武澄の各供述調書の記載によれば所論の如き契約の存在したことは到底これを認めることはできない。而して右認定に反する被告人の原審及び当審における供述並びに原審及び当審における証人大山専一郎の各供述等は前掲各証拠並びに検察事務官に対する大山専一郎、佐藤金蔵等の各供述調書の記載と対比して到底措信しがたい。次に所論は内金二十万円については既に被害者に支払済である旨主張するけれども原判決の掲げている証拠によれば被告人は昭和二十九年一月十五日頃藤屋久吉等より売買代金の内金三十五万円を受取るや同日頃その内金十五万円を被告人、大山専一郎、佐藤金蔵の三名で擅に本件不動産売買斡旋の報酬金と称して分配し、残金二十万円の内十万円は高橋俊男に交付したが残金十万円はこれを預り保管し、更に同月十八日頃右藤屋久吉等より金十万円を受取りながらこれらの金員を何れも売主又はその代理人に交付せずそのために売主より請求を受けながらこれに応じないでいるうち、被告人において材木代金及び人夫賃金等を支払う資金に窮したところからその頃より同年五、六月頃までの間に右保管中の金二十万円を擅にこれらの諸支払に充てたこと、而してその後同年十月頃になつて始めて金二十万円を被害者に支払つていることが認められる。然りとせば後日被告人のなした被害者に対する支払関係は要するに費消又は着服横領した金額の弁償に過ぎないのであり、一旦成立した横領罪の成否と牽連させて論ずべきものではない。されば此の点に関する所論は独自の見解に過ぎない。次に所論は本件金四十五万円の内金五万円は本件建物明渡までの保証として被告人が保管していたものである旨主張するが、原審証人高橋俊男、同藤屋久吉等の各供述等によれば被告人にかゝる権限があつたものとは認められない。而して右認定に反する被告人の当審における供述は措信できないしその余の証拠によるも右認定と異なる心証を惹起しえない。此の点に関する所論も亦独自の見解であつて採るに足りない。
しかし職権をもつて原判示事実並に擬律を通覧するに原判決は原判示第一、第二事実は包括一罪の関係にあると認定しているが当裁判所は右は別個独立した行為であると認定すべきであると認めるので原判決は事実を誤認し法令の適用を誤つた違法を冒しているというべきであるが右違法は被告人の不利益に判決に影響を及ぼさざるものと認めるので破棄理由と認めない。論旨は結局理由がない。
(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 大島雷三 裁判官 松本晃平)